【合同練習1回でも大丈夫!忙しいあなたのための合唱チーム運営マニュアル】
年に一度のお祭り、地域のイベント、あるいは学校の記念行事。ステージで仲間と声を合わせる合唱は、何にも代えがたい特別な体験です。しかし、そのステージに立つまでの道のりを想像したとき、ふとこんな不安が頭をよぎりませんか?
「メンバーはみんな仕事や家庭で大忙し。全員で集まれる日なんて、奇跡でも起きない限り…」
「本番までに合同練習できるのは、たった1回か2回。本当に形になるんだろうか?」
そう、これは特に、保護者や社会人で構成された合唱チームが必ず直面する、大きな大きな壁です。まるで、材料だけ渡されて「あとは各自で調理して、パーティー当日に最高のフルコースを持ち寄ってください」と言われているようなもの。それぞれのキッチン(=日常)で練習するしかなく、みんなで味見(=音合わせ)をするチャンスは、本番直前のたった一度きり。無謀な挑戦状としか思えませんよね。
しかし、どうか安心してください。そんな綱渡りのような状況でも、いえ、むしろそんな状況だからこそ味わえる特別な楽しさや一体感があります。そして、その「ほぼ一発本番」を最高の思い出に変えるための、確かな「航海術」が存在するのです。
私たちの合唱チームは、さながら「リモートワーク中心で企画を練り上げ、たった一度の対面会議で最終プレゼンに臨むプロジェクトチーム」のようなものです。普段はチャットツール(LINE)で意見を交わし、各自が家で資料(自主練)を作り込む。そして、本番直前の合同練習という名の「最終プレゼン会議」で、初めて全員のアイデア(歌声)を一つに束ね、最高の形でクライアント(観客)に届ける。
このブログでは、そんな私たちの試行錯誤の末に見つけ出した、準備段階から本番当日までの具体的なステップとノウハウを、余すところなくお伝えしていきます。
どうやってチームの骨組みを作るの?(準備編)
「歌いたい曲」と「歌える曲」の最適な見つけ方は?(選曲編)
会えない時間をどう乗り越える?モチベーション維持のコツは?(自主練編)
たった一度の合同練習で、奇跡を起こすには?(本番直前編)
このブログを読み終える頃には、「練習時間がなくても、きっとできる!」という自信と、具体的な行動計画が手に入っているはずです。
何を隠そう、これを書いている私たちも、毎年同じ悩みを抱えながらステージに立っている、ごく普通の保護者合唱チームです。右も左も分からなかった初年度、そして試行錯誤を重ねた二度目の挑戦。その中で得た気づきや失敗談は、きっとあなたのチームの役に立つはずです。
このブログは、来年の自分たちに向けた「引き継ぎノート」であり、そして全国のどこかで同じように奮闘しているであろう、見えない仲間たちへの「エール」でもあります。
さあ、一緒に「ほぼ一発本番」のスリルと感動を味わうための、最高の準備を始めましょう!
STEP1:【準備編】さあ、冒険に出る船を造ろう!
さて、前回の記事では「ほぼ一発本番」の合唱が、まるでリモートワーク中心で進むプロジェクトのようだとお話ししました。これから始まる「合唱」という名の、スリリングで感動的な航海。その成功は、どんなに立派な羅針盤(楽譜)や海図(練習計画)を手に入れるか以前に、私たちが乗り込む「船」そのものの頑丈さにかかっています。
どんなに素敵なデザインの家も、土台がしっかりしていなければただの絵に描いた餅です。同様に、どんなに素晴らしい歌声を持つメンバーが集まっても、チームという土台がぐらついていては、その力は発揮されません。
では、その第一歩、チームという名の「船」を造り上げるところから、じっくりと始めていきましょう。
1. クルー(メンバー)を集め、船内放送(連絡網)を整備する
まずは、一緒に船に乗ってくれる「クルー」を集めることから。そして、クルーが集まったら、何よりも先に整備すべきなのが「船内放送システム」、つまり連絡網です。
私たちのチームでは、連絡手段を「LINEグループ」ただ一つに絞っています。これは、情報伝達の効率化という以上に、チームの結束を守るための重要な「ルール」です。
想像してみてください。ある情報はAさんの個人LINEに、別の情報はBさんのメッセンジャーに、そしてまた別の話はCさんとの立ち話で…これでは、嵐が来た時に船長(リーダー)の指示が全員に行き渡らず、船はあっという間に混乱に陥ってしまいます。「言った、言わない」「聞いていない」という問題は、どんなに仲の良いチームであっても、その関係性を静かに、しかし確実に蝕んでいく恐ろしい敵なのです。
連絡手段を一つに絞る。これは、私たちの船が決して沈まないための、最初の、そして最も重要な「お守り」です。
2. それぞれの持ち場(役割)を決めよう
さあ、志を同じくするクルーが集まり、確実な情報伝達ルートも確保できました。しかし、全員がただの「乗組員」では、船は前に進みません。誰が舵を取り、誰が帆を張り、誰が航路を見定めるのか。それぞれの「持ち場」を明確にすることが、この航海をスムーズに進めるためのカギとなります。
● 代表者:船全体の調和を守る「キャプテン(船長)」
チームの顔であり、全体の潤滑油となる存在です。メンバー間の意見調整、スケジュール管理、外部との連絡など、みんなが安心して航海(練習)に集中できる環境を整える、縁の下の力持ち。リーダーシップでぐいぐい引っ張るというよりは、船全体の雰囲気に気を配り、穏やかな航海を支える「航海士」のような役割と言えるかもしれません。
● 指揮者(ディレクター):航海の目的地を示す「羅針盤」であり「操舵手」
このチームの成否を握る、まさに心臓部です。音楽的な指導力はもちろんのこと、限られた時間、メンバーの多様なスキルレベルという制約の中で、どうすれば最高のパフォーマンスを引き出せるかを考える「プロデューサー」でもあります。
どの航路(曲)を選び、どの港(ゴール)を目指すのか。彼(彼女)の示す一筋の光が、私たちの進むべき道を照らしてくれます。まさに、「リモートワーク中心のプロジェクト」における、頼れる「プロジェクトマネージャー」そのものです。
● 伴奏者:船を力強く進める「エンジン」
そして、忘れてはならないのが、この船を動かす動力源、「エンジン」の存在です。もし、チームの中にピアノやギターが弾ける「伴奏者」がいるなら、それはこの航海にとってこの上ない追い風となります。
なぜなら、伴奏者がいるということは、どんな海路(曲)でも進んでいける「高性能な自前のエンジン」を搭載しているのと同じことだからです。選曲の自由度は格段に上がり、航海の可能性は無限に広がります。
一方で、もし伴奏者がいない場合はどうでしょう。私たちは、外部から「カラオケ音源」という名のエンジンをレンタルしてこなければなりません。しかし、そのエンジンが私たちの船体にぴったり合う(練習しやすく、本番で使えるクオリティである)とは限りません。この「カラオケ音源問題」は、後々の選曲段階で、想像以上に大きな壁として私たちの前に立ちはだかることになります。
ですから、もしあなたのチームに楽器を弾ける方がいるならば、ぜひ勇気を出して名乗り出てもらいましょう。その一歩が、チームの未来を大きく変えるかもしれません。
さあ、これで頑丈な船の骨組みが出来上がりました。信頼できるクルーが集い、それぞれの持ち場も決まりました。
次はいよいよ、この船でどこへ向かうのか、この旅のハイライトを決めるステップです。最も心躍り、そして最も頭を悩ませる「航路=選曲」の決め方について、次の記事で詳しく見ていきましょう。
STEP2:【最重要】航海の目的地を決めよう!〜選曲は「民主的」かつ「戦略的」に〜
さて、頑丈な船(チーム)の骨組みが完成し、信頼できるクルー(メンバー)もそれぞれの持ち場(役割)につきました。私たちの船は、今まさに港を出て、広大な音楽の海へと漕ぎ出す準備が整ったところです。
しかし、どこへ向かうのでしょう?
宝島ですか?夕日が美しい静かな島ですか?それとも、みんなで踊り明かせる情熱的なカーニバルの島でしょうか?
この「目的地=選曲」を決めるプロセスこそ、この航海全体を通して、最も重要で、最も心躍り、そして最も頭を悩ませるステップです。なぜなら、目的地が魅力的でなければクルーの士気は上がりませんし、かといって、無謀な航路を選べば、私たちの小さな船は嵐にのまれてしまいます(本番がうまくいかない)。
だからこそ、選曲は「みんなの夢を聞く民主的なプロセス」と、「現実を見据えた戦略的な判断」の、二つの側面を組み合わせることが不可欠なのです。さあ、最高の目的地を見つけるための、3つのステップを見ていきましょう。
ステップ①:「行ってみたい島」のアイデアを出し合う(ヒアリング)
まずは、クルー全員が「どんな島へ行ってみたいか」という夢を、自由に語り合うところから始めます。これは、プロジェクトで言えば「ブレインストーミング」の段階。ここでは質より量、実現可能性は一旦横に置いて、とにかくたくさんのアイデアを集めることが大切です。
私たちの船では、「Googleフォーム」という名の、いつでもどこでも夢を投函できる魔法のポストを用意します。通勤中の電車の中からでも、寝る前のベッドの中からでも、スマホ一つで「あの曲が歌いたい!」「こんな雰囲気の曲がいいな」という想いを、気軽に投げ込めるようにするのです。これにより、会議室で改まって発言するのが苦手な人でも、自分の意見を伝えやすくなります。
ステップ②:みんなの心を掴むのはどの島?(人気投票)
たくさんの「行ってみたい島」の候補が挙がったら、次はその中から特に人気の高い島を絞り込むための「人気投票」を行います。
私たちのチームでは、まずZoomなどのオンラインミーティングで、集まった候補曲をリストにして発表する「プレゼン大会」を開きます。そしてその後、再びGoogleフォームを使って電子投票を行うのです。
ここでのポイントは、「1人3〜5票」の複数投票制にすること。
もしこれが1人1票だと、どうしても有名な曲や声の大きな人の意見に票が集中しがちです。しかし、複数投票制にすることで、「一番歌いたいのはこの曲だけど、こっちの曲もちょっと気になる」「この曲なら、自分の声に合っているかも」といった、多様な気持ちを拾い上げることができます。まるで、一番行きたい本命の島だけでなく、「ここも立ち寄れたら嬉しいな」という島にも印をつけるようなもの。このひと工夫が、意外なダークホース曲を発掘したり、チーム全体の納得感を高めたりする上で、非常に効果的なのです。
ステップ③:船長による、夢と現実の最終調整(最終選定)
さて、ここからがこのステップの最も難しく、そして重要な局面です。人気投票の結果という「みんなの夢のリスト」を手に、指揮者(ディレクター)という名の船長が、最終的な航路を決定します。
ここで船長は、非情とも思えるほどの現実的な視点で、候補となっている島々を吟味しなければなりません。
1. 我々の船で、この嵐を乗り越えられるか?(=チームのレベルに合っているか)
「歌いたい曲」と「歌える曲」の間には、時として残酷なほどの隔たりがあります。憧れの島は、確かに魅力的かもしれません。しかし、その航路にあまりにも険しい嵐の海域(超高音パート、複雑なハーモニーなど)が存在する場合、私たちの船(チームの実力)では乗り越えられず、座礁してしまうかもしれません。船長は、クルー全員が最後まで笑顔で航海を続けられる、最適な難易度の航路を見極める必要があります。
2. 目的地までの燃料は足りるか?(=音源はあるか)
そして、これが最大の難関、「カラオケ音源問題」です。
前回の記事で、伴奏者がいない私たちの船は「レンタルエンジン」で進むしかない、とお話ししたのを覚えているでしょうか。どんなに素晴らしい目的地(曲)でも、そこへたどり着くための適切なエンジン(音源)がなければ、私たちは港から一歩も動くことすらできません。
船長は自問します。
「本番という大舞台で、最高のパフォーマンスを発揮できる高品質なエンジン(カラオケ音源)は見つかるか?」
「日々の訓練(自主練)で、各パートが自分のペースで練習できるような、都合の良い小型エンジン(パート別音源)は手に入るか?」
この「エンジン探し」は、私たちの航海の可能性を大きく左右します。この現実的な制約を乗り越えてこそ、私たちは夢の島へとたどり着けるのです。
このように、指揮者はみんなの投票結果を最大限に尊重しつつも、チームの実力、練習時間、そして音源の有無という現実的なフィルターを通して、最終的な目的地を決定します。この決断は、時に人気投票1位の曲を選ばないという、苦渋の選択になるかもしれません。だからこそ、投票の前に「必ずしも投票数の多い曲に決まるとは限りません」と全員に伝えておくことが、後のトラブルを防ぐための重要な「お守り」になるのです。
さあ、私たちの船が進むべき目的地が決まりました!
次はいよいよ、その目的地への到着日に最高のパフォーマンスを発揮するため、各自が準備を始める「自主練」のフェーズです。会えない時間をどう乗り越え、チームの一体感を保ち続けるのか。その秘訣について、次の記事で詳しく見ていきましょう。
STEP3:【自主練編】孤独な夜の航海を乗り越えるための「2つの灯台」
さあ、私たちの船は、ついに目指すべき目的地(曲)を定め、広大な海(練習期間)へと漕ぎ出しました。港にいた時のような喧騒はもうありません。聞こえるのは、自分自身が奏でるメロディの響きと、寄せては返す練習の波音だけ。
そう、ここから本番直前の合同練習まで続く「自主練」の期間は、いわば静かで孤独な「夜の航海」です。それぞれのクルー(メンバー)が、それぞれの持ち場で、ひたすら自分と向き合い、技術を磨く時間。しかし、この期間こそが、私たちの航海における最大の難所かもしれません。
なぜなら、周りに仲間たちの姿は見えず、自分が進んでいる方角が正しいのか、他の船はどのあたりを進んでいるのか、何も見えない暗闇の中で、たった一人で舵を取り続けなければならないからです。「私のこの歌い方、本当に合ってるのかな…」「みんなはもう完璧に歌えているんじゃないだろうか…」そんな不安が、オールを漕ぐ手を鈍らせ、心のコンパスを狂わせてしまいます。
しかし、ご安心ください。この長く孤独な夜の航海を乗り越え、全員が同じ朝日を迎えるための、暗闇を照らす「2つの灯台」が存在します。
灯台その1:全員が同じ「海図」と「羅針盤」を持つ
まず、この航海に出るための絶対条件。それは、クルー全員が寸分違わぬ「海図(楽譜)」と、正確な方角を示す「羅針盤(練習用音源)」を手にしていることです。
船長(指揮者)は、目的地(曲)が決まったら、一刻も早く、これらを全員に配布しなければなりません。これは、船長の最初の、そして最も重要な責務です。もし、誰かが古い海図を持っていたり、羅針盤が少しでも狂っていたりしたらどうでしょう。そのクルーは、良かれと思って進んだ先で、全く違う島にたどり着いてしまうかもしれません。
特に、私たちの船のように、途中で集まって軌道修正する機会がほとんどない場合、この「羅針盤」の精度は生命線となります。全体音源はもちろんのこと、ソプラノ、アルト、テナーといった、それぞれのパートのメロディだけが強調された「パート別音源」は、暗闇の航海における北極星のような存在です。自分の進むべき航路(メロディライン)が正しいかどうかを、いつでも確認できる。この安心感が、孤独な練習の大きな支えとなるのです。
灯台その2:定期的に交わす「狼煙」と「船上ミーティング」
完璧な海図と羅針盤を手に入れたとしても、それだけでは心の孤独は埋まりません。そこで重要になるのが、遠く離れた仲間と「自分たちは繋がっている」と確認し合うための、コミュニケーションという名のもう一つの灯台です。
● 日々の「狼煙(のろし)」としてのLINEグループ
LINEグループは、私たちの船における「無線通信室」であり、クルーたちが気軽に集う「甲板」でもあります。ここでは、かしこまった報告は必要ありません。
「2番のサビの、あの高波(高音パート)がどうしても越えられない…誰かコツを教えて!」
「この部分の潮の流れ(リズム)、どうやって乗りこなしてる?」
「今日は仕事が忙しくて、全然練習できなかった…みんなは進んでるんだろうな…」
そんな、技術的な悩みや、ふと漏らした弱音。それが、この夜の航海で打ち上げる「狼煙」です。一つの狼煙が上がると、それを見た他のクルーが、「私もそこで苦戦してる!」「私はこうやって乗り越えたよ!」と、次々に返信の狼煙を上げてくれます。
その小さな光のやり取りが、「悩んでいるのは自分だけじゃないんだ」「みんなも同じ海で戦っているんだ」という強烈な連帯感を生み出します。物理的には一人でも、心は決して一人ではない。この感覚こそが、モチベーションという名の船のエンジンを、再び力強く動かしてくれるのです。
● 月夜の「船上ミーティング」としてのZoom
そして、時折開催するZoomミーティングは、いわば「月明かりの下で開かれる船上ミーティング」です。テキストだけの通信とは違い、実際に仲間たちの顔を見て、声を聞くことの効果は絶大です。
指揮者からの「現在、全体の航海は順調だ。次の難所はここだから、各自備えてほしい」といった公式アナウンスを聞くこと。そして、何より大切なのが、その後の雑談の時間です。「最近どう?」「練習、進んでる?」そんな何気ない会話の中で、お互いの元気な顔を確認し合う。それだけで、「よし、明日からもまた頑張ろう」というエネルギーが湧いてくるから不思議です。
これは単なる進捗確認会議ではありません。長い航海の途中で、一度船を止め、同じ釜の飯ならぬ「同じ画面」を囲み、士気を高め合うための大切な「儀式」なのです。
このように、自主練は個々の努力が基本ですが、便利なツールを使えば、心の距離はいくらでも縮めることができます。私たちは物理的に離れていても、常に同じ船に乗り、同じ目的地を目指す運命共同体なのだと、忘れないでください。
さあ、それぞれの持ち場で鍛錬を積んだクルーたちが、いよいよ一つの港に集結する時が来ました。次の記事では、この航海のクライマックス、「ほぼ一発勝負」となる合同練習と本番を、最高に楽しむための秘訣についてお話しします。
STEP4:【本番直前編】いざ上陸!「ほぼ一発勝負」を最高の祭りに変える方法
長かった孤独な夜の航海(自主練)が、終わりを告げようとしています。水平線の向こうが白み始め、暗闇に紛れていた仲間たちの船影が、一つ、また一つと姿を現す。遠くから聞こえてくるのは、自分と同じメロディを口ずさむ、懐かしい仲間たちの声。
さあ、いよいよ私たちの船団が、初めて一つの港に集結する時が来ました。
本番という名の「宝島」上陸を目前に控えた、たった一度きりの合同練習。それは、これまで各自が磨き上げてきた技と想いを一つに束ねるための、最後の「作戦会議」であり、胸の高鳴りを分かち合う「前夜祭」でもあります。
この「ほぼ一発勝負」という、スリリングな時間を最高に楽しむための、最後の秘訣をお話ししましょう。
1. 合同練習の心構え 〜完璧な「合奏」より、最高の「共鳴」を〜
ついに迎えた合同練習。それぞれの持ち場で、たった一人、海図(楽譜)と羅針盤(音源)だけを頼りに航海を続けてきたクルーたちが、初めて顔を合わせ、声を合わせる瞬間です。
ここで、私たちは何をすべきなのでしょうか?
1ミリのズレもない完璧なハーモニーを奏でること?一糸乱れぬ完璧なリズムを刻むこと?
もちろん、それも大切です。しかし、私たちの船団が目指すべきゴールは、そこではありません。この場で最も大切なのは、お互いの船(歌声)の響きを感じ、呼吸という名の潮の流れを合わせ、「私たちは、同じ想いを乗せた一つの船団なのだ」という、魂の「共鳴」を確かめ合うことです。
初めて合わせた時、きっと想像通りにいかない部分もたくさんあるでしょう。ある船は少し速く進みすぎているかもしれないし、別の船は少し違う航路を進んでいたかもしれません。しかし、それを責める必要は全くありません。むしろ、そのズレや違いを、その場で調整していくライブ感こそが、「ほぼ一発本番」の醍醐味なのです。
完璧な演奏を目指すあまり、眉間にしわを寄せていては、最高の祭りは楽しめません。多少の音の外れやリズムの乱れは、この日のために集まれた喜びを表現する、人間味あふれる「スパイス」くらいに考えましょう。大切なのは技術の正確さよりも、心を一つに通わせること。それさえできれば、私たちの船は必ず目的地にたどり着けます。
2. 指揮者(船長)の最後の仕事 〜嵐を鎮め、追い風を吹かせる魔法〜
クルーたちが不安と期待の入り混じった表情で集う中、船長である指揮者(ディレクター)には、最後の、そして最も重要な仕事が待っています。
もちろん、音のバランスを整えたり、テンポを最終確認したりといった、港に安全に入港するための細かな「舵取り」は不可欠です。しかし、それ以上に重要な任務。それは、クルーたちの心の中に渦巻く「本当にうまくいくのだろうか」という不安の「嵐」を鎮め、本番のステージへと向かう彼らの背中を押す、自信という名の「追い風」を吹かせることです。
船長は、クルー一人ひとりの顔を見渡し、力強くこう宣言します。
「ここまで、みんなよく頑張ってきた。孤独な練習は大変だっただろう。でも、もう一人じゃない。これだけ素晴らしいクルーが集まったんだ。私たちの船が、最高の宝島にたどり着けないはずがない!」
この言葉は、単なる精神論ではありません。音楽とは、不思議なもので、技術以上に「心」が音を支配します。自信に満ちた心で発せられた声は、驚くほど遠くまで響き渡り、聴く人の心を揺さぶるのです。
音を合わせ、曲を作り上げることは大前提。しかし、最後の最後で指揮者に求められるのは、音楽家というよりも、チームの心を一つにする最高の「モチベーター」としての役割なのです。
3. 最高の思い出を刻む「魅せる」選曲のススメ 〜島をまるごと巻き込むカーニバル〜
そして最後に、私たちの航海を忘れられないものにするための、とっておきの戦略をお話しします。
私たちが目指す目的地(曲)には、様々な種類の島があります。静かな入り江で、その美しいハーモニーをじっくりと聴かせるような島。それも素晴らしい体験です。
しかし、練習時間が限られている私たちだからこそ選べる、もう一つの選択肢があります。それは、島の住民(観客)を一人残らず巻き込んで、島全体で盛大なカーニバルを開いてしまうような、そんなエネルギッシュな島を目指すことです。
私たちのチームでは、昨年、西城秀樹の「ヤングマン」を披露しました。これはもう、合唱というよりは「祝祭」です。歌のうまさよりも、振り付けを楽しみ、会場と一緒に「YMCA!」と叫ぶ。その瞬間、ステージと客席の境界線は溶けてなくなり、会場全体が巨大な一つの船と化します。
今年も、THE BLUE HEARTSの「人にやさしく」を選びました。これもまた、「歌う」というよりは、心の底からの想いを「叫ぶ」曲です。技術的な完成度を追い求めるのではなく、その曲が持つエネルギーを、私たちの魂を通して会場全体に解き放つこと。
これは、限られた時間で成功を収めるための、極めて有効な「戦略」です。完璧なハーモニーを奏でる船団も美しいですが、少しくらい不格好でも、島中を笑顔と熱狂の渦に巻き込んでしまう海賊船のような船団がいたって、いいじゃないですか。
私たちの航海は、すべてが完璧に計画された豪華客船の旅ではありません。手作りのいかだで、時に迷い、時にぶつかりながらも、仲間と笑い合い、助け合いながら進む、一度きりの大冒険です。
そのクライマックスの価値は、どれだけ譜面通りに演奏できたかではなく、「どれだけ心の底から楽しめたか」で決まります。
さあ、港に集結した仲間たちと、最後の円陣を組みましょう。
宝島は、もう目の前です。最高の祭りを、始めようではありませんか!
【まとめ】航海の終わりに。私たちが手に入れた「本当の宝物」とは
私たちの船は、ついに宝島(本番ステージ)での盛大な祭り(演奏)を終え、今、静かな港へと帰ってきました。船体には、この冒険の記憶が刻み込まれ、クルーたちの顔には、心地よい疲労感と、何物にも代えがたい達成感が浮かんでいます。
長かったようで、あっという間だったこの航海。
振り返れば、それは「時間がない」「集まれない」という、逆風の中から始まった旅でした。
私たちはまず、この無謀な航海に耐えうる頑丈な船を造ることから始めました(準備編)。たった一つの連絡網という名の竜骨を通し、船長、操舵手、エンジンという、それぞれの役割を明確にすることで、決して沈まないチームの土台を築きました。
次に、クルー全員の夢と現実をすり合わせながら、胸が高鳴る航海の目的地を定めました(選曲編)。みんなの「行ってみたい!」という民主的な声に耳を傾けつつも、船長は冷静に海図を読み解き、私たちの実力でたどり着ける、最高にエキサイティングな航路を選び抜きました。
そして始まった、孤独な夜の航海(自主練編)。離れ離れの状況でも、私たちは共通の海図(楽譜)と羅針盤(音源)を手にし、LINEという狼煙(のろし)とZoomという船上ミーティングで、常にお互いの存在という灯りを確認し合いながら、暗い海を進み続けました。
最後に、たった一度きりの港での集結。私たちは、完璧な演奏という宝よりも、仲間と**魂を共鳴させるという最高の祭り(本番直前編)**を選びました。技術を超えた心の繋がりが、会場全体を巻き込む大きな渦となり、忘れられない感動を生み出してくれたのです。
さて、この航海を終えて、私たちの手には何が残ったのでしょうか。
観客からの温かい拍手?ステージの上でライトを浴びた高揚感?もちろん、それらも素晴らしい宝物です。しかし、この旅で私たちが手に入れた、本当の宝物は、もっと別の、静かで、しかし確かな輝きを放つものだったように思います。
それは、「制約」という名の逆風が生み出してくれた、かけがえのない宝物です。
「時間がない」からこそ、私たちは知恵を絞りました。 どうすれば効率的に情報を共有できるか、どうすれば短時間で心を一つにできるか。その試行錯誤の一つひとつが、私たちの航海術を磨き上げてくれました。
「会えない」からこそ、私たちは仲間を想いました。 画面の向こうで頑張っている仲間、LINEの短いメッセージに込められた気遣い。物理的な距離が、かえって心の距離を縮め、私たちの絆を鋼のように強くしてくれたのです。
「ほぼ一発勝負」だからこそ、私たちは「今、この瞬間」を心の底から楽しめました。 失敗を恐れるよりも、この奇跡的な集結を祝うことを選びました。そのスリルと一体感は、きっと、何度も練習を重ねたチームでは味わえない、特別な感動だったはずです。
もし私たちに、潤沢な時間と練習場所があったなら、もっと技術的に完成度の高い合唱ができたかもしれません。しかし、その代わりに、この宝物を手にすることはできたでしょうか。きっと、できなかったでしょう。
結局のところ、合唱の、そしてチームで何かを成し遂げることの本当の価値は、アウトプットの完璧さだけで測れるものではありません。そのプロセスの中で、何を学び、何を感じ、仲間とどんな関係性を築けたのか。そこにこそ、本質的な喜びが眠っているのです。
この航海日誌(ブログ)が、来年の私たち自身への、そして、日本のどこかの港で、同じように「時間がない」という逆風の中にいる、見えない仲間たちへの、ささやかな道しるべとなることを願ってやみません。
私たちの航海に、完璧な楽譜は存在しません。しかし、どんな時も進むべき方角を教えてくれる、最強の羅針盤は持っています。それは、「音楽が好きだ」という初期衝動と、「仲間と声を合わせるのが楽しい」という、ただそれだけの純粋な心です。
さあ、素晴らしい宝物を船に積み込み、しばしの休息を取りましょう。
そして、また新しい航海の計画を立てるのです。
来年は、いったいどんな島を目指しましょうか?